ケーススタディ(一般論)

遺言で取得した財産の「取得原因」は相続か遺贈か
相続税申告書 第1表の記入の考え方

遺言により相続人が財産を取得したとき、第1表の取得原因欄は「相続」と「遺贈」のどちらを選ぶのか。国税庁の様式説明・記載例と、民法・相続税法の条文、判例から整理しました。

本ページは一般的な整理であり、個別の事案への当てはめは、遺言書の文言・相続人の範囲・相続放棄の有無を確認したうえで行う必要があります。法令・国税庁資料は令和8年10月7日現在のものを確認しています。外部リンクはすべて別タブで開きます。

ご相談の内容

相談の要旨(個人名・担当部署名は除いています)

相続税申告書 第1表の「取得原因」欄(相続・遺贈・相続時精算課税に係る贈与)について、
社内で次の2つの運用が併存している。

  • 運用A:遺言で分割した場合は、取得者が相続人であってもすべて「遺贈」とする
  • 運用B:相続人以外の第三者に遺贈する場合だけ「遺贈」とし、相続人が遺言で取得した場合は「相続」とする

調べても「遺贈は相続人を含まない」とは書かれておらず、
「相続人以外に財産を渡したい場合は遺贈するしかない」としか書かれていない。
遺言で分割する場合、国税側から見るとどちらが正しいのか。
税務署の申告書様式の記載例も踏まえて整理してほしい。

結論

結論の要旨

運用A・運用Bのどちらも、そのままでは正確ではありません。
「遺言かどうか」ではなく、遺言の文言で決まります。

  • 「〇〇に相続させる」と書かれた財産を相続人が取得した場合は 相続
  • 「〇〇に遺贈する」と書かれた財産は、取得者が相続人であっても 遺贈
  • 相続人以外の者が遺言で取得した財産は、常に 遺贈

相続人が取得する限り、どちらに付けても相続税額は変わりません。
これまで相続人の取得を「遺贈」として申告していた分について、税額に影響がなければ修正申告や更正の請求の対象にはならないと考えられます。

取得原因の早見表

取得のしかた取得原因根拠の要点
「〇〇に相続させる」と書かれた財産を相続人が取得(特定財産承継遺言)相続遺産分割方法の指定であり遺贈ではない(最高裁平成3年4月19日判決、民法1014条2項)
「〇〇に遺贈する」と書かれた財産を相続人が取得(相続人に対する特定遺贈・包括遺贈)遺贈民法上の遺贈。受遺者を相続人以外に限る規定はない(民法964条)
相続人以外の者(第三者・法人等)が遺言で取得遺贈相続人でない者は相続による取得ができない
死因贈与により取得遺贈相続税法上、遺贈に含まれる(相続税法1条の3第1項の括弧書)
遺産分割協議により相続人が取得相続通常の相続

詳細タブの3章へ(相続させる旨の遺言の法的性質)

国税庁の様式説明には、遺言の場合の選び方は書かれていない

国税庁「相続税の申告のしかた(令和8年分用)」の第1表の記入説明は、
「取得原因は、該当する項目に『1』と記入してください」とあるだけです。
同冊子の用語説明も「遺贈とは、被相続人の遺言によってその財産を移転することをいいます」とするにとどまり、
税務署配布の申告書記載例も遺産分割協議で分けた事例で、遺言の事例は載っていません。

つまり様式側に答えはなく、その取得が民法上「相続」なのか「遺贈」なのかという法的性質で判断することになります。
相続税法は「相続又は遺贈」の遺贈を民法からそのまま借りており、遺贈の相手を第三者に限る規定はありません。

詳細タブの1章へ(国税庁の様式説明・記載例の原文)

税額への影響

項目相続人が「相続」で取得相続人が「遺贈」で取得相続人以外が「遺贈」で取得
基礎控除・税率影響なし影響なし影響なし
相続税額の2割加算続柄で判定続柄で判定原則対象
債務控除(相続税法13条)可可(相続人なら可)包括受遺者のみ可
生命保険金等の非課税可可(相続人なら可)不可
配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例可可要件を満たせば可

取得者が相続人である限り、「相続」「遺贈」のどちらに1を付けても税額は変わりません。
区分が税額に効いてくるのは、相続人以外の受遺者や、相続放棄した者が遺贈により取得した場合です。

詳細タブの5章へ(税額に影響する場面)

実務上の整理(提案)

運用の目安
  • 遺言書の条項ごとに文言を確認し、「相続させる」は相続、「遺贈する」は遺贈と機械的に区分する
  • 同じ相続人が「相続させる」財産と「遺贈する」財産の両方を取得する場合は、両方の欄に「1」を付けて差し支えないと考えられる
  • 相続人と包括受遺者は第1表の付表1に全員を記入するため、包括遺贈かどうかはそちらでも区別される
  • 1通の遺言に「相続させる」と「遺贈する」が混在することは珍しくない。条項ごとに区分が変わりうる

主な確認事項

詳細タブの7章へ(確認事項の全件)

1 第1表の取得原因欄と国税庁の様式説明

相続税申告書 第1表には、財産を取得した人ごとに「取得原因」欄があり、
「相続」「遺贈」「相続時精算課税に係る贈与」のうち該当するものを選びます。

国税庁「相続税の申告のしかた(令和8年分用)」の第1表の記入説明(37ページ)は次のとおりです。

取得原因は、該当する項目に「1」と記入してください。

同冊子の冒頭「相続税のあらまし」(1ページ)の用語説明は次のとおりです。

(2) 遺贈 遺贈とは、被相続人の遺言によってその財産を移転することをいいます。

(注)贈与をした人が亡くなることによって効力を生じる贈与(これを死因贈与といいます。)については、相続税法上、遺贈として取り扱われます。

税務署配布の「相続税の申告書の記載例」は、父が亡くなり母と子2人が遺産分割協議で分けた事例であり、遺言により取得した事例は載っていません。

以上のとおり、国税庁の様式説明には「遺言で取得した場合はどちらを選ぶか」という基準は書かれていません。
したがって、取得原因の区分は、その取得が民法上「相続」なのか「遺贈」なのかという法的性質で判断することになります。

2 相続税法の「相続又は遺贈」は民法の概念

相続税の納税義務者を定める相続税法1条の3第1項は、
「相続又は遺贈(贈与をした者の死亡により効力を生ずる贈与を含む。以下同じ。)により財産を取得した」者を対象としています。

相続税法は「遺贈」の独自の定義を置いておらず、死因贈与を含める拡張をしているだけです。
したがって「遺贈」の意味は民法に従います。

民法964条は「遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる」と定め、
遺贈の相手方(受遺者)を相続人以外の者に限定していません。相続人も受遺者になれます。

「遺贈は第三者に渡すもの」という理解は、「相続人以外の者に財産を渡すには遺贈によるほかない」という実務上の説明が逆向きに読まれたものと考えられます。
民法上「遺贈の相手は第三者に限る」という規定はありません。

3 「相続させる」旨の遺言の法的性質

特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、
遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺産分割方法の指定(民法908条)であり、
被相続人の死亡の時に直ちにその遺産がその相続人に相続により承継されるとされています(最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決)。

この類型は平成30年の民法(相続法)改正で「特定財産承継遺言」として明文化されました。
民法1014条2項は「遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)」と規定しています。

よって、「相続させる」旨の遺言で相続人が取得した財産は、民法上「相続」による取得であり、
第1表の取得原因も「相続」です。
不動産登記の実務でも登記原因は「相続」とされ、「遺贈」とはされません。

補足

遺言書に「相続させる」と書かれていても、相手が相続人でない場合は相続による承継ができないため、
遺贈と解されます。この場合の取得原因は「遺贈」です。

4 相続人に対する遺贈

遺言書に「長男に〇〇を遺贈する」「相続人全員に各3分の1ずつ包括して遺贈する」のように書かれていれば、
取得者が相続人であっても民法上は遺贈(特定遺贈・包括遺贈)です。
この場合の取得原因は「遺贈」になります。

包括遺贈を受けた者(包括受遺者)は相続人と同一の権利義務を有し(民法990条)、
第1表の付表1(相続人及び包括受遺者の明細)にも記入します。

相続人への遺贈は、相続税の計算上は相続とほぼ同じ扱いになりますが、
民法上の性質が遺贈である以上、取得原因欄は「遺贈」と表示するのが条文に沿った記入と考えられます。

5 区分が税額に影響する場面

取得者が相続人である限り、「相続」「遺贈」のどちらに1を付けても相続税額は変わらないと考えられます。
主な項目の判定は次のとおりです。

項目判定のしかた根拠
基礎控除・相続税の総額法定相続人の数で計算し、取得原因の区分には左右されない相続税法15条・16条
相続税額の2割加算被相続人の一親等の血族・配偶者以外の者が対象。続柄で判定し、相続か遺贈かでは判定しない相続税法18条
債務控除相続人又は包括受遺者であれば、遺贈による取得でも控除できる。相続人以外の特定受遺者は控除できない相続税法13条1項
生命保険金等・退職手当金等の非課税相続人が取得した場合に限る。相続放棄した者・相続人以外の者は対象外相続税法12条1項5号・6号
配偶者の税額軽減相続又は遺贈により取得した財産が対象。遺言による取得は分割済みとして扱われる相続税法19条の2
小規模宅地等の特例相続又は遺贈により取得した宅地等が対象。親族要件等は別途判定租税特別措置法69条の4

区分が税額に効いてくるのは、次のような場合です。

したがって、これまで相続人の取得を「遺贈」として申告していたものについて、
税額に影響がない限り、修正申告や更正の請求の対象にはならないと考えられます。表示の区分の問題にとどまります。

6 周辺制度での扱いと、相続放棄との関係

相続人への遺贈は、多くの場面で「相続」と同じ扱いに寄せられている

制度扱い根拠
不動産取得税相続・包括遺贈・相続人に対する遺贈による取得は非課税。相続人以外への特定遺贈は課税地方税法73条の7第1号
登録免許税(所有権移転)相続人に対する遺贈も相続と同じ税率(1000分の4)。相続人であることを証する書類が必要登録免許税法別表第一
農地の取得(農地法3条の許可)相続・包括遺贈・相続人に対する特定遺贈は許可不要農地法3条1項16号、同法施行規則15条5号

相続税額に差が出にくいのは、こうした「相続人への遺贈は相続並み」という扱いが制度の各所にあるためです。

「相続させる」遺言と「遺贈する」遺言で違いが出る場面

7 確認事項(全件)

8 出典

いずれも別タブで開きます。国税庁の冊子は年分ごとに改訂されるため、申告する年分の版を確認してください。

国税庁

相続税の申告のしかた(令和8年分用)

第1表の記入説明(37ページ)に「取得原因は、該当する項目に『1』と記入してください」とある。1ページの「相続税のあらまし」に相続・遺贈・相続時精算課税に係る贈与の用語説明がある。

国税庁

相続税の申告書の記載例(税務署配布)

父が亡くなり母と子2人が遺産分割協議で分けた事例。遺言により取得した事例は含まれていない。

国税庁

タックスアンサー No.4102 相続税がかかる場合

相続・遺贈・相続時精算課税に係る贈与により財産を取得した場合に相続税がかかる、という基本の整理。

法令

相続税法

1条の3(納税義務者・「相続又は遺贈(贈与をした者の死亡により効力を生ずる贈与を含む。)」)、12条(非課税財産)、13条(債務控除)、18条(2割加算)、19条の2(配偶者の税額軽減)。

法令

民法

908条(遺産の分割の方法の指定)、964条(包括遺贈及び特定遺贈)、990条(包括受遺者の権利義務)、1014条2項(特定財産承継遺言)。

判例

最高裁判所 平成3年4月19日 第二小法廷判決(民集45巻4号477頁)

特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、遺贈と解すべき特段の事情がない限り遺産分割方法の指定であり、被相続人の死亡の時に直ちにその遺産がその相続人に相続により承継される。

法令(周辺制度)

地方税法・登録免許税法・農地法・農地法施行規則

地方税法73条の7第1号(不動産取得税の非課税)、登録免許税法別表第一(相続人に対する遺贈の税率)、農地法3条1項16号・同法施行規則15条5号(許可不要の取得)。